大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成8年(行ツ)212号 判決 1997年11月13日

大阪市西淀川区佃三丁目二〇番二一号

上告人

日新化成株式会社

右代表者代表取締役

石井暎偉

右訴訟代理人弁護士

谷戸直久

大阪市西淀川区野里三丁目三番三号

被上告人

西淀川税務署長 大西信忠

右指定代理人

大竹聖一

右当事者間の大阪高等裁判所平成七年(行コ)第六二号法人税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年六月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人谷戸直久の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件固定資産税相当額を損金の額に算入しなかったことに違法はないとした原審の判断は、是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき、又は結論に影響しない点をとらえて原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)

(平成八年(行ツ)第二一二号 上告人 日新化成株式会社)

上告代理人谷戸直久の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背があり、又判決の理由に齟齬があり、取り消されなければならない。

以下、それにつき詳述する。

一、原判決は、法人税二二条三項につき「法二二条三項の『損金』とは、資本等取引以外の取引で純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少をいうものであり、このうち同項一号の『売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額』とは、収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価のうち、収益に直接かつ個別的に対応するものをいい、同項二号の『販売費、一般管理費その他の費用』とは、収益に個別的には対応しないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価をいうものであって、いずれも事業の遂行上必要とされるものであることは明らかであって、同項三号の『損失』とは災害、盗難等通常の事業活動とは無関係な偶発的要因により発生する資産の減少をいうのである。」との解釈を示し、上告人の納付した固定資産税は、この法人税法二二条三項二号の要件を欠くから、損金として認められないと判示する。

しかしながら、右の原判決は次に述べるとおり違法である。

(1) 法人税法二二条三項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げるものとする。」と定められていて、原判決の判示する右要件については何ら定められていない。特に公租公課については、法人税法は三八条以下において、損金に算入されない公租公課についての明確な規定を有しており、そこに規定された以外の公租公課につき損金算入を否定する法的根拠はない。

原判決は、「法人税法二二条三項の要件につきのべるところは、要件事実の解釈及び具体的認定、判断であり、何ら租税法律主義に反するものではない」とするが、租税法律主義とは、課税団体、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の租税要件等はもとより、納付、徴収等の手続きについても法律により定められなければならないとの租税要件等法定主義を指すことは勿論のこと、それと共に、それらができるだけ詳細に明確に規定されなければならないとする租税要件等明確主義の原則を包含するものと解すべきで、かかる租税要件等明確主義の原則からすれば、税法の解釈は、厳格になされることが必要である。端的にいえば、租税法の解釈は「疑わしきは国庫の利益に反して」なさなければならないのである。

原判決の判決理由は、かかる原則に違背し、法人税法を納税者の利益に反する形で不当に解釈するものであって、違法といわざるをえない。

法人税法二二条三項によれば、別段の定めがある場合を除き、純資産の減少の原因となる支出その他経済的価値の減少が損金になるのであるから、更なる例外はなく、一切のものが損金に算入されなければならない。原判決は法人税法二二条三項の解釈を明らかに誤っているものである。

(2) 仮に、損金の範囲につき、法人税法二二条三項の解釈によりその要件を制限することが許されるとしても、原判決のいう「法人税法二二条三項二号の『販売費、一般管理費その他の費用』が、収益に個別的には対応はしないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価をいうものであって、いずれも事業の遂行上必要とされるもの」を要件とすることは損金の範囲を不当に制限するもので、違法である。

「事業の遂行上必要とされるもの」を要件とするのであれば、それは、法律に違反する違法な支出とか、事業遂行とは全く無関係であることが明確なものを除く趣旨に限定して解釈されるべきである。それが租税法律主義(租税要件等明確主義の原則)の要請に合致する解釈である。

かかる解釈からすれば、上告人の本件固定資産税の納付は、公法上の義務に基づき行った正当な行為である以上、法人税法の別段の定めも該当しないのであるから、当然に損金算入が許されなければならない。かかる損金算入を許さなかった原判決は、法人税法二二条三項二号に違反するというべきである。

(3) 原判決は、「上告人は本件土地を所有するものではなく、同土地を何ら上告人の事業に利用しているものともいえないから、本件固定資産税は上告人の事業の遂行上必要な支出ということはできない」と判示する外、前述したように、「法人税法二二条三項二号の『販売費、一般管理費その他の費用』とは、収益に個別的には対応はしないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価をいうものであって、いずれも事業の遂行上必要とされるものであることは明らかである」と判示することからして、原判決は、固定資産税が損金として認められる為には、土地を所有するだけでなく、具体的な事業に利用していることが必要であると解釈している如くである。

しかしながら、遊休不動産を所有する会社が納付した固定資産税を損金として計上し、課税庁もこれを認める課税実務の運用がなされているのであり、かかる実務の運用だけからしても、具体的な事業に供していることが固定資産税を損金に算入するための要件であるとの解釈が誤っていること明白であろう。

右に述べたところにより、原判決は、「不動産の真の所有者であれば具体的に事業に供されなくても要件を満たす」と弁解するかもしれないが、そうであれば、それは正に「『販売費、一般管理費その他の費用』とは、収益個別的には対応しないが当該事業年度の収益獲得のために費消された財貨及び役務の対価である」との原判決の損金の要件が誤っていることを自陳する以外の何物でもない。遊休不動産は当該年度の収益獲得に何ら利するものでないからである。

以上要するに、原判決には右に述べた点において理由不備・理由齟齬があり、これにより判決に影響があること明白である。

(4) 原判決は、「前記認定の諸事実、特に右二の3で述べたところからすれば、課税所得の算定の見地からは、本件固定資産税の会計処理は立替金として計上すれば足り、これが一般に更正妥当と認められる会計処理の基準に反するといい難いから、上告人が当該事業年度においては大阪観光にその支払請求をしていないことから現実に立替金等として計上する会計処理をしていないからといって、上告人が本件固定資産税を損金に算入しなかったことが違法となるものではない」と判示する。

しかしながら、原判決のいう「本件固定資産税を立替金として計上することが正しい会計処理であること」及び「これが般に公正妥当と認められる会計処理の基準に反するといい難いこと」はいずれも誤った見解であり、正しくない。

一般に「立替金」とは、従業員とか取引先の為に一時的に生じる金銭の立替払いであり、上告人に対する賦課決定に基づき、自らの納税義務を消滅されるべき本件固定資産税を納付した本件において、これが主観的にも客観的にも「立替金」なる勘定科目の要件を全く満していない。かかる処理が正しい会計処理であろう筈がない。

又、法人税法二二条四項によれば、第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に更正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されなければならないのであるが、一般に更正妥当と認められる会計処理の基準によれば、立替金を資産に計上するにはそれが確実なものとして確定していることを必要とするのである。

原判決は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準についての正しい理解を欠いており、その判示する理由は法人税法二二条四項に違反するものである。

原判決は、計上すべき立替金を上告人が計上していないのであるから、本件の損金算入の否認が違法となるものでないと判示するが、上告人が計上していないのではなく、そもそも本件固定資産税は立替金に該当するものでなく、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準からして、計上することが許されないのであるから、判決の理由は全く誤っている。そして、原判決の論旨からすれば、立替金の計上が許されないものであるならば、その当然の帰着として、本件固定資産税を損金に算入しなかったことは違法であることを認める結論に達するのである。

(5) 更に原判決は、本件固定資産税を損金に算入しないとしても、二重課税にはなるものでないとし、その理由として「大阪観光が上告人に対し前記不当利得返還請求義務を履行した場合、これが同社が本件土地を所有することによる費用として同社の法人税の所得計算上損金に算入されるものであるし、上告人から大阪観光に対する右不当利得返還請求権が回収不能となった場合には、そのことをもって損金処理することが可能であることからすれば、本件固定資産税を損金に算入しないからといって何ら不都合、不公平は認められない」と判示する。

しかしながら、前述したように、本件固定資産税の納付は上告人が公法上の義務の履行としてなした正当な行為である。しかも、法人税法二二条三項によれば、特段の定めのない以上、公租公課を損金に算入すべき旨が定められており、これに基づき上告人は法人税の申告に際し本件固定資産税を損金に算入したものである。大阪観光が本件固定資産税を損金に算入して法人税の申告をした事実はないのであるから、これにより、国の課税権は何ら侵害されることはなかったのである。

そのような状況の中で、敢えて上告人の損金算入を否認し、原判決も暗に認めている二重課税の状態を作出したのである。事後的にこれを解消しうる課税の可能性を論じても、現時点における二重課税という違法状態は何ら解消されず、その違法が治癒されるものでもない。しかも、被上告人は、上告人に課税することによる二重課税の状態を避けるために、大阪観光に対し「減額更正」の手続きをとることによって、それを容易に避けることができたのである。

上告人は、被上告人がかかる「減額更正」なる手続きをとることなく二重課税状態を敢えて作出したことの違法性につき原審にて主張したのであるが、原判決は判決理由の中でかかる重要な事項につき何ら触れていない。

上告人の主張は、具体的に被上告人の課税権が何ら侵害されていない状況下において、本件土地の帰属という私人間の問題につき、何らの権限もまた必要性もないにもかかわらず、敢えて不当に介入し、その結果、二重課税という違法状態を惹起させ、それをさけるためには容易に減額更正手続きをとりえたのにそれを取らなかったという経緯の中で、その二重課税の違法性につき論じたものである。減額更正をしないで他方の損金算入を否認することを違法性につき何ら判断を示さず、事後的に二重課税状態が解消されうる可能性を論じることによって問題をすり替える原判決には判断遺漏、理由不備の違法があるというべきである。

以上

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